主な病気と治療方法

神経因性膀胱

神経因性膀胱とは

神経因性膀胱(しんけいいんせいぼうこう)は、脳・脊髄の中枢神経、あるいは脊髄から膀胱に至るまでの末梢神経の様々な病気により、膀胱や尿道の働きが障害され、下部尿路機能障害をきたす病気の総称です。尿が近くなったり(頻尿)、逆に尿意を感じずにいくらでも膀胱に尿が貯まったり(尿意の喪失)、尿の勢いが低下したり、残尿が増えたり、などさまざまな症状を呈します。神経因性膀胱を起こす可能性のある病気は、脳血管障害(脳卒中)、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、小脳変性症、脊髄髄膜瘤(二分脊椎症)、脊髄係留症候群、椎間板ヘルニア、脊椎管狭窄症、直腸癌・子宮癌手術による膀胱への末梢神経障害など、またそれ以外にも多くの病気があり、多岐にわたります。

原因

膀胱と尿道の働きは脳・脊髄・末梢神経からなる神経の働きによってコントロールされます。膀胱に尿が溜まっていくと、その情報は脊髄から脳に伝わります。すると、脳は「まだ尿を出さないで…」という指令を、延髄の橋(きょう)という部位にある第1の排尿の中枢に伝えます。すると、橋排尿中枢は排尿のスイッチのoffにします。すると、この指令は、脊髄の仙髄にある第2の排尿中枢に伝わり、排尿の反射(尿道を緩めて、膀胱を収縮させる)を抑制します。
膀胱に尿が充満すると、その情報は、膀胱→脊髄→脳に伝わり、今度は脳が「尿を出して…」という指令を橋(第1の排尿の中枢)に伝えます。すると、橋排尿中枢は排尿のスイッチのonにします。この指令は、脊髄の仙髄にある第2の排尿中枢に伝わり、排尿の反射(尿道を緩めて、膀胱を収縮させる)が起こり、尿は膀胱から尿道を通って排出されます。
このように、膀胱・尿道の機能、すなわち蓄尿(尿をためる)と排尿(尿を排出する)は、脳から末梢神経までの神経の働きによってコントロールされていますので、これらの神経の異常が起こると、膀胱・尿道の機能も障害されます。
神経因性膀胱の症状は、原因となる神経疾患の部位によって異なります。一般的には、脊髄の仙髄にある第2の排尿中枢より上位の神経、すなわち脊髄(腰髄・胸髄・頸髄)や脳の病気の場合(脳血管障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、小脳変性症など)には、排尿の反射の抑制が効かなくなり、排尿反射が過敏になって膀胱が勝手に収縮してしまう状態になります。そのため、頻尿、尿意切迫感(急にがまんできないような尿意が起こる)、トイレまで間に合わずに尿が漏れるなどの症状が出現します。逆に、仙髄にある第2の排尿中枢より下位の神経、すなわち仙髄より末梢の神経の病気の場合(脊髄髄膜瘤:二分脊椎症、脊髄係留症候群、椎間板ヘルニア、脊椎管狭窄症、直腸癌・子宮癌手術による膀胱への末梢神経障害など)には、排尿反射がうまく起こらなくなり、膀胱の収縮が障害されて、排尿困難(排尿の勢いがない、排尿時にりきむ、尿線が細い、残尿が残るなど)の症状が出現します。

検査・診断

神経因性膀胱の診断は、泌尿器科専門医が患者さんから下部尿路症状を十分に聴取し、また身体の診察によって、神経の病気に関わるような神経症状がないかどうかを診察します。特に重要なことは、下部尿路機能障害を引き起こすような神経疾患の既往の情報を得ることです。しかし、必ずしも神経疾患の既往がなくても、下部尿路機能障害がきっかけとなって神経の病気が見つかることも少なくありません。
症状の問診と身体の診察だけではなく、尿流動態検査(にょうりゅうどうたいけんさ)と言って、膀胱や尿道の機能を調べる検査も神経因性膀胱の診断のためには重要です。単に、トイレ型の機械に向かって排尿を行うと尿の勢いをカーブとして描出してくれるような簡単で非侵襲的な検査から、尿道から膀胱に細いカテーテルを挿入し、膀胱内に生理食塩水を注入しながら膀胱内の圧を測り、膀胱の知覚や収縮機能の詳細を知ることができる検査までいろいろな検査方法があります。正しい治療のためにも、膀胱・尿道機能を正確に知ることは重要であり、泌尿器科医による専門的検査が必要となります。

尿の勢いを調べる尿流量測定検査
尿流動態検査

治療

神経因性膀胱の治療の目的は、症状の改善のみならず、尿路感染の防止、また長期的に腎機能を守ることになります。
蓄尿障害(尿を貯めることの障害)の治療には、膀胱の収縮を抑制する薬(抗コリン薬やβ3作動薬)を投与に加え、膀胱訓練、骨盤底筋訓練、干渉低周波治療、仙骨神経刺激治療(仙骨神経付近に電極を埋め込んで、皮下にはペースメーカーを埋め込んで、膀胱に関連する神経を刺激することにより膀胱の過敏な収縮を抑制する治療)、経尿道的膀胱壁ボツリヌス毒素注入治療などが行われることもあります。また、尿道を締める筋肉(尿道括約筋)の機能障害により、腹圧性尿失禁のある場合には、外科的治療として、尿道スリング手術や人工尿道括約筋埋め込み術を行うこともあります。また、膀胱が小さくなってしまった場合には、腸管を使った膀胱拡大術という手術を行うこともあります。
排尿障害(尿をスムースに出すことができない)の治療には、膀胱の収縮を強める薬を使うことがありますが、有効性は低く、清潔間歇導尿による尿排出が標準的治療となります。清潔間歇導尿とは、自分あるいは家族の方が、必要時に尿道からカテーテル(管)を挿入して膀胱内の尿を排出し、尿を出したらカテーテルを抜くという排尿管理方法です(泌尿器科医が指導・管理を行います)。
その他にも、様々な治療法がありますが、神経因性膀胱が疑われる場合、専門医に相談することが重要です。当科では、様々な原因による神経因性膀胱に対して、他科とも共同して系統的な精査の上、原因を把握し、病態にあった治療をうけることが可能です。お気軽にご相談ください。

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