主な病気と治療方法

性別不合/性別違和/性同一性障害

名古屋大学医学部附属病院の取り組み

名大病院泌尿器科は2002年にGender Affirming Hormone Therapy(GAHT;ホルモン療法)を開始しました。その後、2014年に名古屋大学GID診療ガイドラインの策定及びGID委員会を設置し、関係各科と協力の上で、包括的な診療を開始しました。日本精神神経学会の『性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン』に基づいた診療を行っています。2016年からGender Affirming Surgery(GAS;性別適合手術)を開始しました。2018年からGID学会認定施設の一つになっています。
現在、泌尿器科では、GID学会認定医による専門的な診療が行われています。

性同一性障害の診断

性同一性障害の診断には、この疾患に対して、診断・治療に十分な理解と経験を持つ精神科医2名(一部は心理専門家)以上の複数名が独立に作成した意見書に基づいた確定診断が必要です。性別の違和感がある人がすべて性同一性障害(GI/GD/GID)というわけではありません。統合失調症や発達障害、その他の精神・神経疾患で類似症状が起きることもあります。この場合、元々の疾患を治療することで違和感が軽減する場合がありますので、時間をかけて診断することが必要です。

特に精神的な問題は、季節的な変化や人生における環境変化の影響を受けることがあります。GI/GD/GIDには精神的な問題を合併することが多いとされます。このため、GI/GD/GIDの診断(および治療)を短時間で行うことは困難と考えています

性同一性障害の治療

GI/GD/GIDに対する治療は、精神科領域の治療(精神的サポート)と身体的治療に大別されます。精神的サポートは生涯にわたって必要です。このサポートは精神科医や心理専門家による治療が進められます。

身体的治療には、GAHT(ホルモン療法)と手術治療(乳房切除術や性別適合手術など)があります。身体的治療は不可逆的な治療が含まれています。当院ではガイドラインに従った診療を行っていますので、身体的治療については、GID委員会による慎重な討議、審査・承認と、必要に応じて関連諸委員会による審査・承認が必要となります。
GI/GD/GIDに対する一連の治療には精神心理療法とGAHT、GASがあります。本来、当院はGID学会認定施設であり、手術療法(乳房切除術やGAS)は保険適用になります。しかし、現在ではGAHTが自費診療です。日本の保険診療のルールのなかに、同一疾患の一連の治療の中では自費診療と保険診療の混合診療が認められないという「混合診療の禁止」があります。性同一性障害の一連の治療は、原則としてGAHTを欠くことができません(これを欠く治療は、そもそもGI/GD/GIDの診療と認定することが極めて困難です)。
結果的に、現在(2024年1月)のところ、当院での身体的治療はすべて自費診療となります。さらに、診療上、起こり得た合併症治療についても保険適用外となりますので、くれぐれもご留意ください。

なお、インターネットやSNS上で入手できる情報(国内外での診療や個人輸入を含む)は、あなたに必要な治療か、適切な時期の治療か分かりません。自己責任と言われることがありますが、自己責任というには厳しい、大変困難な合併症を起こすことがありますので、ご留意ください。

当科で担当する具体的な身体的治療について

GI/GD/GIDへのホルモン療法では、いわゆる生来の性を特徴付けるホルモンとは別のホルモンを使います。TG女性には卵胞ホルモン製剤、TG男性にはテストステロン製剤を使用します。手術治療では、性的象徴となる部位の切除と生殖器の手術、整容の変更があり得ます。GI/GD/GID当事者すべてに同じ治療は必要ありません。また、生活をする上で、周囲の理解が得られたり、当事者自身の受け止め方の変化によって、必要な治療が変わります。このため、こころのケアができる施設や当事者団体の活用をお薦めします。

GAHTでは、これまでの経験上、肝機能異常や耐糖能異常、多血症、骨粗鬆症、精神症状への影響などのリスクがあります。安全に治療するために、当科でのホルモン療法では必要最小限の投与量を見つけ出し、維持する方法を採用しています。具体的には、詳細な問診と体格の評価、内性器の評価を行い、さらに、性ホルモンのコントロールを行う下垂体ホルモンの一種であるLHとFSHなどを適宜、測定します。

なお、遠方の方や仕事の事情で当科の通院が難しい場合は、コントロールが安定した時点で、ご希望の施設に紹介させていただき、当科では定期的に採血・合併症管理を行っています。詳細については、GID学会認定医にお尋ねください。

手術療法については、関係各科と協力して診療を行っています(一部を除く)。

当院の診療は名大病院GID診療ガイドラインに基づいて行っています。治療は精神心理療法が必要不可欠であり、当院だけでなく、他院での併診が原則となります。詳細は関係診療科にお尋ねいただくか、GID学会認定医の診療の中で尋ねてください。当科での診療は身体的治療を担当します。

性別違和を有する方へ

GI/GD/GIDの治療の目的は、当事者の生活の質(QOL)の改善にあります。必要以上の治療を受けることは、かえってQOLを損ねることがあります。性別違和にお悩みの場合、周囲の人の助けや支えが非常に重要ですし、特に学齢期の場合は、こうした支えがあることが何よりも大切です。
性別違和に対しては診療が必要となることがあります。性別違和感は性同一性障害だけが原因ではありませんし、性同一性障害以外の疾患を合併することがあります。性同一性障害の診断だけでなく、合併症の治療のために、精神心理療法の併診となることが多いため、まずは地元の精神心理療法を担当する診療科への受診を考えてください。
当院での診療を希望される場合は、原則として紹介状が必要です。GID学会認定医は泌尿器科に在籍しておりますので、不明なことがありましたら、紹介の上で受診いただければ、診療(特に初診)の中で説明いたします。
なお、他科に直接来られても、受診できないことがありますので、ご注意ください。

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