精巣がんとは
精巣は男性の陰嚢内に左右1つずつ存在し、精子の造成や男性ホルモン合成を行い、生殖能力や男性機能をつかさどる重要臓器です。精巣腫瘍は人口10万人あたり1‐2人に発症する稀な疾患で、20‐30歳代のいわゆる「AYA世代」と呼ばれる世代に発症のピークを認めます。精子が形成される前段階の細胞である胚細胞が悪性化したものが精巣がんですが、2‐5%程度は精巣以外の部位(腹部や胸部)にも発生することが知られています。また、30%程度はリンパ節や肺などの他臓器に転移した進行性精巣がんとして発見されます。精巣がんの危険因子には様々な要因との関連が知られており、家族歴(父親や兄弟で精巣がんの既往がある)、停留精巣(小児期に精巣が陰嚢内に納まっていない)などが知られています。その他、男性不妊、精液検査異常、母親の喫煙、低出生体重児、早産などの周産期因子も精巣がん発生との関連を示す報告もされています。
症状
痛みを伴わない固いしこりを精巣に自覚されて気づかれることが最も多いです。ただし、しこりが小さい場合は自覚されにくい場合があります。転移のある進行例では、転移臓器に応じた症状(息苦しさ、胸痛、血痰、頸部のしこりなど)が出現することもあります。
検査・診断
本画像検査:超音波(エコ-)検査やMRI検査で腫瘍の有無、サイズや広がりを評価します。また、CT検査や必要に応じて脳MRI検査で転移がないかどうかを確認します。
血液検査:AFP、hCG、LDHの精巣がんの腫瘍マーカーの上昇の有無を確認します。病理組織診断:精巣がんでは精巣を摘出(高位精巣摘除術)し、顕微鏡でミクロの形態を観察することで精巣がんのタイプ(セミノーマと非セミノーマ)を診断します。これらの結果をもとに、ステージ(TNM分類)やリスク(IGCCCリスク分類)の分類を行います。
治療
精巣がんは転移があっても治癒を目指すことが可能ながんであり、病期に応じて手術、化学療法、放射線治療を組み合わせて根治を目指していきます。
- 高位精巣摘除術
- ステージに関わらず、まず初めに行われる治療です。腫瘍のある側の精巣をつながる血管や精管とともに摘出します。手術時間は1時間程度です。
- 化学療法
- Ⅱ期およびⅢ期(リンパ節転移や臓器転移)の進行精巣がんやⅠ期でも再発リスクが高いもので行われます。治療期間はステージ、リスク分類により異なりますが、進行がんの場合は3-4か月程度の入院および通院治療が必要になります。(治療経過によりさらに長くなる場合もあります。)
- 手術
- 進行精巣がんで化学療法を行った後に、残った転移病変を切除します。(ただし、残った病変が十分に小さい場合は手術は行わず経過観察のみとする場合もあります。)リンパ節の病変では後腹膜リンパ節郭清術が行われます。また、肺や肝臓などの転移病変は他科と連携して切除手術を行います。
- 放射線治療
- Ⅰ期セミノーマの再発予防やⅡ期セミノーマの治療として行うことがあります。
- 精子保存
- 化学療法、手術、放射線治療で精子を造る機能が低下し不妊症の原因となることがあります。そのため、治療前に精子採取を行い凍結保存を行うことがあります。