主な病気と治療方法

過活動膀胱

過活動膀胱(overactive bladder:OAB)とは

過過活動膀胱(OAB:Overactive Bladder)は、自覚症状によって定義される疾患です。すなわち、急に起こる我慢のできないような尿意(尿意切迫感)が必須症状(主症状)とし、通常は頻尿(何回もトイレに行く)や夜間頻尿(就寝後何回もトイレに起きる)を伴っており、場合によっては切迫性尿失禁(急に強い尿意が起こってトイレまで間に合わずに尿がもれる:尿失禁の項参照)を伴う疾患です。従って尿意切迫感があれば、過活動膀胱が疑われます。

OABの病態
過活動膀胱の頻度
日本では排尿障害に対する疫学調査が行われており、2022年の調査では過活動膀胱は40歳以上の男女の13.6%の方が過活動膀胱に罹患していることが示されています。また、その約半数が尿失禁(切迫性尿失禁)を伴うことも示されています。
原因
過活動膀胱の病因は様々です。脳血管障害、パーキンソン病、多系統萎縮症、認知症などの脳や、脊髄損傷、多発性硬化症、脊髄小脳変性症、脊髄腫瘍、頸椎症、後縦靭帯骨化症、脊柱管狭窄症などの脊髄の神経疾患が過活動膀胱の原因となります。しかし、神経疾患がなくても、前立腺肥大症に合併することもあり、加齢による膀胱機能の変化も原因となり、さらに明らかな原因疾患のない(特発性)の場合もあります。

OABの診断

検査・診断

過活動膀胱は患者さんの症状に基づいて診断されますので、自覚症状の評価が最も重要です。尿意切迫感の症状があれば過活動膀胱と診断されますが、頻尿や切迫性尿失禁を伴っていればより確実です。近年、過活動膀胱で病院を受診される方が増えています。専門医は、過活動膀胱の診断や重症度を評価するために下図の質問票「過活動膀胱症状質問票」を用いますが、この質問票は患者さん自身が記入するものですので、自己診断にも使うことができます。質問3(尿意切迫感に関する質問)の点数が2点以上で、全質問の総合点数が3点以上であれば過活動膀胱と診断されます。また総合点数が5点以下であれば軽症、6〜11点であれば中等症、12点以上であれば重症と、重症度判定に用いる場合もあります。ただ尿検査や超音波検査などの検査によって、膀胱炎、膀胱結石、膀胱腫瘍などの膀胱の特殊な病気の存在(これらも過活動膀胱と同じ症状を呈する)がないかをチェックすることは重要です。

過活動膀胱質問票

OABの治療

OABに対する治療は、行動療法と薬物療法が中心となっています。行動療法には、ダイエットや運動療法、飲水指導などの生活指導や排尿記録に基づいて、排尿を我慢させることでOABを改善させる膀胱訓練、骨盤底筋訓練などの理学療法が挙げられます。効果面だけでなく、安全性も高く、有用な治療法であると考えられていますが、本邦においては、時間的な制約、人員的な問題などで、OABの治療としてあまり普及していないのが現状です。一方、薬物療法は、OAB治療の根幹をなしており、抗コリン薬とβ3アドレナリン受容体作動薬(β3作動薬)が、その中心的な役割を担っています。OABに対する効果は、多くの臨床研究で示されていますが、その一方で治療継続率は、1年で約30%前後と低く、OAB診療における課題の一つとなっています。以下に行動療法、薬物治療の詳細を示します。

行動療法
行動療法の目的の一つは膀胱訓練など、排尿習慣を変えることにより膀胱機能を調整することです。我々がOABの治療として有効であると考えている膀胱訓練と骨盤底筋訓練について概説します。
膀胱訓練
尿をなるべく我慢させる訓練法であり、無治療に対する優越性や、無作為試験において抗コリン薬とほぼ同等の効果が報告されています。また、副作用の報告はなく、安全性も高い療法です。具体的には、やみくもに排尿を我慢するのではなく、排尿日誌などで、日中および夜間に膀胱の最大容量を把握したうえで、どのくらい我慢するか目標を設定して訓練していくことが効果的です。
骨盤底筋訓練
骨盤底筋訓練は女性の腹圧性尿失禁に対して有効であることがすでに示されていますが、切迫性尿失禁にも有効です。正確な改善メカニズムは不明ですが、骨盤底筋訓練による尿道の収縮により尿道への尿の流れ込みを改善させ、それにともなう排尿刺激を抑制することでOABの改善につながると考えられています。
薬物療法
本邦におけるOABの治療において、薬物治療は中心的役割を担っており、様々な薬剤の中で、有用性や安全性が確立されているのは、抗コリン薬とβ3作動薬です。以下に、その詳細を概説します。
β3作動薬
蓄尿期には交感神経の活動が優位となり、ノルアドレナリンが交感神経終末から放出され、膀胱平滑筋のβ受容体を活性化することで、膀胱の弛緩が得られます。日本人研究者らにより、ヒト膀胱には、β受容体の中でも、β3受容体がほとんど(97%)を占めており、β3受容体の活性化により膀胱の弛緩が得られることが明らかとなりました。β3作動薬の主作用は、排尿筋の弛緩ですが、それに加えて、間質細胞や尿路上皮のβ3受容体に作用して、膀胱局所の自発収縮運動や膀胱知覚神経を抑制することも、OAB症状改善機序の一端を担っていると考えられています。
本邦ではミラベグロンとビベグロンの2種類が使用可能で、いずれも高いOAB症状や生活の質(QOL)に対する改善効果に加えて、口内乾燥、便秘など抗コリン薬の特徴的な副作用がほとんどみられないといった特徴を有しています。
抗コリン薬
抗コリン薬は、副交感神経終末から放出されるアセチルコリン(Ach)が、排尿筋のムスカリン受容体に結合するのを遮断することで、過剰な収縮を抑制しOAB症状を改善します。さらに、膀胱知覚神経や膀胱自発収縮運動に対する抑制効果を有することも報告されています。このようにOABに対しては高い改善効果が期待できますが、その一方で、ムスカリン受容体遮断作用による口内乾燥や便秘などの副作用、認知機能に対する影響を考慮する必要があります。
名大病院泌尿器科におけるOABの治療戦略

難治性OABの治療

一次治療である行動療法および各種抗コリン薬(経口薬、貼付薬)やβ3受容体作動薬を含む薬物療法を単独ないしは併用療法として、少なくとも12週間の継続治療を行っても抵抗性である場合、難治性OABと診断されます。最近、難治性OABの治療として、仙骨神経刺激療法、ボツリヌス毒素膀胱内注入療法が保険適応とりました。

ボツリヌス毒素膀胱内注入療法
ボツリヌス毒素は、化学的な除神経作用によりコリン作動性神経からのアセチルコリンの放出抑制や求心性神経に対する作用を有することが示されています。A 型ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法の有効性や安全性については多くの臨床試験で示されており、内服治療に対し不応性の神経因性および特発性過活動膀胱患者において有効な治療法と考えられています。本邦においても難治性の特発性および神経因性過活動膀胱に対する有効性と安全性の治験がなされ、2020年に保険適用となりました。
仙骨神経刺激療法
仙骨孔より挿入した刺激電極により仙髄神経を継続的に電気刺激することで、膀胱に対して抑制性と興奮性の両方の効果をもたらし、切迫性尿失禁、骨盤痛や尿閉などの様々な下部尿路障害に対して改善が期待できる治療法です。やや侵襲を伴いますが、その高い有効性と長期にわたって持続する効果が期待できます。本邦では2017 年に難治性過活動膀胱に対し保険適用となりました。

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