主な病気と治療方法

尿失禁

尿失禁とは

尿失禁とは自分の意思とは関係なく尿が漏れてしまうことと定義づけられています。尿失禁は生活の質に大きく影響するにもかかわらず、恥ずかしくて、なかなか相談しづらいという特徴を持ちます。尿失禁は大きく(1)腹圧性尿失禁、(2)切迫性尿失禁、(3)溢流性(いつりゅうせい)尿失禁、(4)機能性尿失禁の4つに分けられ、それぞれのタイプに応じて治療法も異なります。

原因

腹圧性尿失禁は、外尿道括約筋(尿が漏れないよう尿道を締める筋肉)の働きが障害され、尿道の抵抗が弱くなるために、せき・くしゃみをする、重い物を持つなど腹圧が加わった時に、膀胱内の圧が尿道(括約筋)の圧より高くなるために、尿意を伴わずに尿が漏れるものです。外尿道括約筋機能の障害は、女性では妊娠・分娩、肥満、加齢(老化)などが原因となり、男性では前立腺肥大症や前立腺癌に対する手術が原因となります(図1)。
切迫性尿失禁の原因は過活動膀胱です。過活動膀胱では、蓄尿時(膀胱に尿が溜まる)に膀胱が勝手に収縮を起こしたり、膀胱の知覚が強まることで、急にがまんできないような尿意が起こり(尿意切迫感)、トイレまで間に合わずに尿が漏れることがあり、これを医学的には切迫性尿失禁と呼びます。脳卒中や脊髄障害など中枢神経の疾患でみられますが、明らかな原因がないことの方が多く、加齢や生活習慣病との関連性が言われています。また男性では前立腺肥大症の50%程度に合併することが報告されています(図2)。女性では、腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁の両者が合併することが多く、混合性尿失禁と言われています。

【図1】
【図2】
山口 脩、他:図説 下部尿路機能障害より転載

溢流性尿失禁は自分で尿を出したいのに出せない、でも尿が少しずつ漏れ出てしまう失禁のことです。イメージ的にはコップの水がいっぱいになって、そこからこぼれ出してくる感じです。前提に尿が出にくくなる排尿障害が必ず存在し、重度の前立腺肥大症や直腸癌や子宮癌の手術後などに起こる神経因性膀胱などでみられます。
機能性尿失禁は、下部尿路機能は大きな問題がないにもかかわらず、身体運動機能の低下や認知症により、トイレに行くまでに時間がかかる、あるいはトイレに行けないことで起こる尿失禁です。この尿失禁の場合、泌尿器的な介入よりも、介護や生活環境の見直しなどが必要になってきます。

診断

尿失禁の起こる状況や、尿失禁に関与する可能性のある既往歴の聴取など十分な問診をおこなうことで、ほとんどの場合で尿失禁のタイプを判定できます。あわせて、検尿(尿路感染がないか)、pad(パッド)テスト(腹圧性尿失禁の有無、重症度の評価に有用)、エコーによる残尿測定(排出障害の合併がないか)といった身体に負担のない検査を行います。また、必要に応じて、内診台での診察、チェーン膀胱尿道造影検査、尿流動態検査、膀胱鏡検査などの詳しい検査を行うこともあります。

治療

尿失禁、特に腹圧性尿失禁、切迫性尿失禁の治療として、生活習慣の改善、行動療法、薬物治療、外科的治療があげられます。以下にその概説を加えます。

生活習慣の改善
水分のとり過ぎにより尿量が多くなり、尿失禁症状を悪化させることがあります。この場合には、水分摂取量を減らすことを考える必要があります。外出・運動などの前に排尿し、膀胱を空虚にしておくことにより尿失禁発生のリスクを減らすことができます。またダイエットや生活習慣病の是正も尿失禁には有効であるとされています。
行動療法(骨盤底禁訓練)
骨盤底禁訓練(体操)は、膣あるいは肛門を締める運動を一定期間行うものです。1日に30-50回程度行い、3か月くらい毎日続けます。腹圧性尿失禁に対する骨盤底筋訓練は標準的治療として確立されており、過活動膀胱による切迫性尿失禁に対しても有効です。専門医の指導を受けて行った方が効果的です。
行動療法(膀胱訓練)
膀胱訓練とは切迫性尿失禁に対する治療で、少しずつ排尿間隔を延長するもので、尿意あるいは尿意切迫感があってもあわててトイレに行かずに我慢し、4週間から8週間かけて徐々に膀胱の容量を大きくするものです。
薬物治療
腹圧性尿失禁に対して薬物療法が行われることはありますが、その効果はあまり期待できません。一方、過活動膀胱に伴う切迫性尿失禁に対しては薬物療法が中心となり、標準治療薬として抗コリン薬あるいは交感神経β3受容体作動薬が挙げられます(詳細は過活動膀胱の項を参考にしてください)。また前立腺肥大に伴う切迫性尿失禁に対しては、α1遮断薬または、PDE5阻害薬の単剤治療を行い、それでも切迫性尿失禁が残存する場合に、抗コリン薬またはβ3作動薬の併用が推奨されています。最近では、抗コリン薬あるいはβ3作動薬の単剤治療で、切迫性尿失禁の改善効果不十分例に対して両薬の併用療法の有用性が報告されており、重症症例、難治症例に対する薬物治療選択肢の幅が広がりました。
外科的治療
中部尿道スリング手術(TVT手術、TOT手術)
女性腹圧性尿失禁に対する標準的な手術は尿道スリング手術で、85~90%程度で尿失禁の消失が得られます。膣の前壁を小さく切開し、尿道中部の下に人工メッシュ(網目状のテープ)を置いて尿道を支える手術で、現在本邦で最も広く行われています(図3)。
【図3】
山口 脩、他:図説 下部尿路機能障害より転載
人工尿道括約筋埋め込み術

前立腺肥大症に対する経尿道的前立腺切除術や前立腺がんに対する根治的前立腺全摘除術後に発生する、重度の腹圧性尿失禁が適応となります。尿道の周りに尿道を締めるための帯状のカフを巻き付け、陰嚢の皮下に埋め込んだスイッチを自分で操作し、このカフを膨らませて尿道を圧迫することにより尿失禁を防ぎます。排尿する時は、やはり陰嚢皮下のスイッチを操作してカフをへこまして排尿します。当科では、東海地区で一番多くの症例数の治療を行っており、遠方からも多くの患者さんをご紹介いただいております(図4、5)。

【図4】
【図5】
泌尿器Cure & Care Uro-Lo(メディカ出版)、22(2)、p116、2017
(松川宜久、人口尿道括約筋埋め込み術の術前・術後管理)より転載
ボツリヌス毒素の膀胱壁注入治療

薬物治療で改善が得られない過活動膀胱(難治性過活動膀胱)に対して、2020年に保険適用となった治療です。ボツリヌス毒素は,化学的な除神経作用によりコリン作動性神経からのアセチルコリンの放出抑制や求心性神経に対する作用を有することが示されており、尿道から内視鏡を挿入し、膀胱壁内にボツリヌス毒素を注入します。外来通院で10分ほどの施術で終了し、効果と安全性が示された治療です。

【図6】
SNMパンフレット、メロトロニックより転載
仙骨神経刺激治療

欧米では従来行われていた治療法ですが、本邦では、難治性過活動膀胱に対して2017年に健康保険適用となりました。仙骨孔(臀部)から針金状の電極を差し込んで膀胱を収縮させる神経の傍に置き、臀部の皮下に埋め込んだ電気刺激装置により持続的に刺激することで、切迫性尿失禁、骨盤痛や尿閉などの様々な下部尿路障害に対して改善が期待できる治療法です。長期にわたっての持続効果も報告されています(図6)。

このように尿失禁は、適切な診断、治療により治すことができる病気です。恥ずかしさがあったり、あきらめてしまったりで、医療機関を受診しにくい一面を持ち合わせますが、日常生活の質を上げるためにも、お困りの方は、ぜひ泌尿器科へご相談ください。

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